新興国のハードランディング懸念
今春、筆者は中国やブラジル、インドなど新興国で利上げが遅れたためインフレが加速し、マクロ安定化政策のファインチューニングがうまく行っていないことを懸念していた。各国とも輸入インフレとホームメイドインフレを誤認し、インフレを抑えるために十分な利上げを行わなかったのである。
顕著に価格が上昇していたのは、食料、ガソリンなどいずれの国にとっても主に輸入品であるが、それらの価格上昇は世界的なコモディティ価格高騰を反映したものであり、中国やブラジル、インドなど新興国の旺盛な需要が原因である。新興国はコモディティ価格の上昇を自らの需要の強さの現れと認識する必要があり、せめてインフレ率の上昇幅と同程度の利上げを続けるべきであった。
最近、これらの新興国で財政・金融引締めが修正され、緩和方向へ転換する動きが見られ始めている。現段階では決してインフレが沈静化しているわけではないが、世界的に金融市場が動揺し米欧経済が減速しているため、新興国の政策当局者がインフレ加速より景気減速に政策の焦点を合わせ始めているのだという。
ただ、中国やブラジル、インドでインフレが加速しているのは、単にコモディティ価格が上昇していただけでなく、過去2年間、総需要の拡大ペースが速く、経済が供給制約に直面し始めたためである。現在必要なことは、景気引締め政策によって総需要の拡大ペースを鈍化させることである。
この段階で景気引締め策を解除することは、足元の景気減速を限定的にするかもしれないが、インフレを一段と加速させることになり、将来のさらなる引締めと大幅な景気減速をもたらす可能性がある。新興国経済がハードランディングする可能性が高まっているのではないか。それが世界的な不況をもたらすのではないか、大変懸念している。
最近の外国為替市場(FX)ギリシャに関する混乱や思惑が市場心理を悪化させる事となり、株価が軟調に推移した事やユンケル・ユーログループ議長が「ギリシャをユーロに留めたい訳ではない。」などと発言した事が嫌気されてユーロが軟調に推移すると、その他の主要通貨やクロス円通貨も値を下げる展開となった。しかし、その後ギリシャが国民投票の実施を回避する可能性が高まったとの報道がありこれが材料となってユーロが一転して買い戻されると、イベント前のポジション調整の動きもこれに加わり、その他の主要通貨も反発する動きを強めるなど、市場ではリスク回避の巻き戻しの雰囲気が強まった。